澄んだ空気が映す
「山と心の悠然」

2023年9月20日
 
今回の「悠然看南山」(ゆうぜんとしてなんざんをみる)は、
菊の花と酒を愛した詩人・陶淵明(とうえんめい)によるもの。
連作「飲酒 其の五」の中でも、特に有名な一節です。
 
「採菊東籠下(きくをとうりのもとにとって)、悠然看南山」
東の生垣のもとで菊を採り、菊を持ちながら悠然として、南山を見ている。
 
日本でもその名を知られた陶淵明は、若くして地方の役人職につきますが、
その職務に幻滅し、故郷へ戻り隠遁生活を送ります。
俗な世間とは距離を置き、大自然を友として悠々自適に、
時として、困窮や寂しさもはらんだ暮らしと心境を詠っています。
 
ここでの南山は「終南山」ともいう中国の名山ですが、
人それぞれ、この句から思い起こす山があるでしょう。
私がイメージするのは、生まれて初めて訪ねた北海道で見た羊蹄山です。
 
秋の澄んだ空気、そして心もまた雑念なく澄み切った中で、
野菊を摘んで見上げれば、あの山はこんなに美しかったのか。
秋は本当にいい季節なんだなあ。
 
悠然というのは、山の姿であり、見ている自分の心境でもあるのでしょう。
私もそんな心持ちで、日々のぞむ富士山を眺めてみたいものです。
 

※出典「陶淵明集」
 
「住職だより」に戻る