惑わされず、依存せず
「本当のわたしが、ここにいる」

2023年8月5日
 
今回の掛軸は「主人公」。
一般には、小説や映画などの物語を牽引していく中心人物の意味で、
「人は誰もが人生の主人公」といった使われ方もしますね。
 
一方、私たちの教えでは、「心の主(あるじ)」「本来の自分」とでもいいましょうか。
自立した人格や、自己の主体性に宿した意味合いも強いのです。
この「主人公」のいわれとなったのが「瑞巌(ずいがん)主人公」という公案です。
 
瑞巌和尚という方は、毎日自分自身に向かって「主人公」と呼びかけ、
また自分で「ハイ」と返事をしていました。
「はっきりと目を醒ましているか」「ハイ」
「これから先も人に騙されなさんや」「ハイ、ハイ」と、
毎日独り言を言っておられたというのです。
 
人は誰しも、自分を中心に物事を考えるものですが、
果たしてそれは、本当に自分だけの考えによるものでしょうか。
私たちの中には、いつも自分以外のものが住んでおり、
生きていれば、他人の言動や世間の常識、多種多様な情報などに惑わされ、
時には、自分自身の感情にさえ振り回されるものです。
 
だからこそ、瑞巌和尚は毎日のように自問自答を繰り返し、
「ほんとうの自分は、ここにいる」と、自ら律していたのでしょう。
自分本来の姿を見つめ生きるのは、それほど困難なことなのです。
 

※出典『無門関』
 
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