鯉のぼりの由来は
 「鯉の滝のぼり」

2023年5月3日
 
風薫る五月。この季節、雲頂菴の床の間にかける掛け軸のひとつがこちら、
「三級浪高魚化龍」(さんきゅう なみたかうして うお りゅうとかす)
円覚寺の管長であられた、朝比奈宗源老師の書です。
これは五月の空を彩る「鯉のぼり」の由来ともいわれているもので、
今回は元となった伝説とともに、意味を読み解いていきましょう。
 
その昔、中国の夏王朝を開いた兎(う)という王が、黄河の大洪水を治めるため、上流の龍門峡という所を切り開きました。すると水が三段に落ちる大滝ができ、それを「兎門三級の波」と称しました。
春の雪解け頃になると、黄河も増水し、その中をたくさんの鯉がさかのぼり、三段の大滝へも果敢に挑み駆け上がっていくのです。これがいわゆる「鯉の滝のぼり」です。
その中国の鯉というのは1mを超すものが多く、それらが勢いよく大滝をのぼっては途中で落ち、それでもまたのぼり…。ついにはのぼり切ると、鯉のひれから火が出て龍となり、天へと上っていったという。
 
一匹の鯉が大滝を越え、天にのぼる龍となる。
つまりは、目の前に立ちはだかる壁や困難があっても、それを乗り越える力を秘めて挑戦していけば、その先には素晴らしい境地が待っているだろう。この教えは後年、わが子の健やかな成長を願う親心と重なり、五月の「鯉のぼり」とを結びつけるものになったといわれます。
大空で風を受けながらたなびく鯉のぼり。その由来に思いを馳せ、あらためて元気な泳ぎを眺めてみてはいかがでしょう。
 
◆「住職だより」では、これから少しずつ、雲頂菴で保有する掛け軸をご紹介していきます。
その多くは、お経の一文や禅語(禅宗の文献に記述された言葉)などで、現代の一般家庭ではあまり目にしないものだと思います。一見、読むのも難しく、ましてやその意味となれば途方に暮れ、外国語のように感じるかもしれません。それは入門したての若い修行僧でも同様、恐れることはありません。
初めは何もわからなくとも、どこかで見たこと、聞いたことがある文字や語句を手がかりに、想像をめぐらしてみてください。声に出して読み、できれば暗記して、解釈と照らし合わせていくと、有名な言葉や一文に行き当たることもあるでしょう。まずは、ひとつでも読み解けるものを持てるといいですね。
そしていずれは、それらの意味や教えが、今を生きていく上でなにかの参考や支えになっていくかもしれません。
私はそれを願い、掛け軸を選んでいこうと思います。
 
 
※出典『碧巌録・第七則』
「碧巌録(へきがんろく)」は、禅問答を集めまとめた公案集のひとつであり、禅を志す人には重要な書物
 
「住職だより」に戻る